■回想録1 本郷猛がキライだった■

自分がこんなにも仮面ライダーフェチになったのは、1996年くらいからだったように思う。

無論子供のころは大好きで、しっかりライダー人形も持っていた。しかしそれも他の子供同様、大きくなるにつれ只の良き思い出となり、人形も引越しの時にゴミとなって消えていった。
やがて大人になり、改めて仮面ライダーフェチを自負するようになってから、自分の中に一つだけフに落ちない問題がシコリとして残っている事に気が付いたのだ。

                    “ライダー1号を好きだと思えない”

大人になった自分。それが彼を思う時、得体の知れない不快感が心を曇らせる。
V3は大好きだ。2号もXも、子供の頃は見ていなかったストロンガーさえも今では大好きなのだ。なのに何故か1号ライダーを思う時、自分の心は彼を歓迎しているのか嫌悪しているのか・・・複雑な気持ちになるのだ。
ただ、どうしても彼を好きだと思えなかった。理由はわからない。
そのまま、1年が過ぎた。

 夏、自分はウルトラマン系イベントの運営バイトに勤しんでいた。
そこでは勿論おなじみのウルトラマンショーも催され、土日ともなると大勢の家族連れが会場の座席を埋め尽くす盛況ぶりだった。お客さんの主役はもちろん会場まで足を運んでくれた子供たちだ。ショーが終わった瞬間すごい勢いで飛び出し、ウルトラマンになりきってアクションしだす子、ウルトラマンはどこへ行ったのかと一生懸命お父さんに問い詰める子。古今を問わず、子供達がヒーローの出現に胸躍らせる姿に変わりは無いんだな・・そんな光景をぼんやりと眺めていた時だった。
それまで自分の頭から抜け落ちていた『ある記憶』がふっと・・・ そして鮮明に甦ってきた。


 4歳位の頃だった。近所のスーパーの屋上で仮面ライダーショーが催された。
赤いビニールヒモをパーテーション代りに張り廻らし、観覧席はただのゴザ敷き。怪人も出ないし、戦闘員数名と仮面ライダー一人のなんともお粗末なショーだったが、あの頃は日本各地でこういったミニ・ショーがたくさん開かれていたのだ。そして、それでも日本中の子供達がワクワクと胸躍らせて見に行ったのものだった。

        だって、仮面ライダーに会えるんだもん!

自分もその胸躍らせてライダーに会いに来た子供の一人だった。母に連れられ、敷かれたゴザ席の一番前を陣取ると、靴を脱ぎ、前に揃えて置いた。同じようにショーを見に来ている他の子たちは母親に靴を脱がしてもらったり、お菓子をバリバリ食べ出し甘えてダレたりしているというのに、キチンと自分で靴を脱ぎ大人しく座って待っている自分を誇らしく思ったものだ。それに脱いだ靴だって、きちんとゴザの前に自分で揃えて置いているのだ。こんな良い子はいないだろう。だって、仮面ライダーに会えるのだ!きちんとしなくちゃ。

そしてお待ちかね、ライダーショーがはじまった。内容はよく憶えていないが、黒戦闘員がタンクの上に乗ったり大暴れしてた様子が目に浮かぶ。

『ライダー、こっちの方まで寄ってこないかなぁ』

戦闘の様子にハラハラドキドキしながら、かすかな期待をこめてライダーの姿を目で追う。
と、その時。戦闘員の猛反撃に押されたライダーが敵の攻撃に身構えようと、こちらに(客座に)背を向けた状態でザザッと後ずさってきた。ライダーのカカトが自分のほんの目前まで近付く。
あっ―――!
次の瞬間。あんなに良い子に綺麗に脱ぎ揃えられていた自分の靴は、無残に蹴散らされ斜めを向いていた。顔を上げると、既にライダーはまるで何事も無かった様にまた戦闘員を追って向こうへ走り、暴れていた。

『・・・ライダー、謝らなかった・・・』

こんなに良い子にしてたのに。
お行儀もよくして、きちんと座って、おねだりもしないで。
「良い子だね」って誉めてくれてもいいくらいなのに、ライダーはそれをカカトで一蹴りし、相変わらず自分の戦闘に熱中していた。今でもこんなに自分の脳裏に焼き付いていたのだ。あの銀色ブーツのカカトが自分の安っぽいビニール靴を蹴る瞬間を。

        ”銀色のブーツ”

自分は知っていた。銀色のブーツを履いてるのがどっちの仮面ライダーなのかを。五歳年上の兄から教えられ「仮面ライダー」が作り話だということも知っていたし、ウルトラマンや怪獣の中には人が入っていることも知っていた。そしてそれでも憧れていた。なのに・・・
銀色のブーツを履いたライダー1号は、現実的な感覚の中で幼い子供が見ていたささやかささやかな夢さえ
カカトの一蹴りで砕いてしまったのだ。
誰にも言えなかった。
仮面ライダーが、子供の靴蹴散らして謝らなかったなんて。自分の事に熱中するあまり、良い子のことなど気にも止めないなんて。彼を信じて疑わない他の友達に、自分は彼の無作法を愚痴ることも出来なかった。




 それからだったように思う。自分が1号ライダーのことを『あまり考えたくない』と子供心に避けはじめたのは。思い出してみれば、全くたわいも無いこと。

 『そりゃあライダーだって命懸けで戦ってりゃあ、オイラの靴ひとつに構ってらんないよなぁ。』

思い出した時はさすがに一人で苦笑した。気が付けば、自分はいつのまにか本郷猛より年上になっている。長年のトラウマの原因が解明されたその時、やっと自分はライダー1号も他のライダー同様に素直に好きだと思うことが出来た。

  

 最後にアトラクショーでヒーローを演じる方々へ。

子供って、大人の気付かない些細なことで傷つくものなのです。
もしあなたがアクション中にうっかり観覧席の子供の持ち物を蹴散らしてしまったら、たとえ演技の途中でも、ちょっとだけ・・・その子の頭に手を置いてやってください。

その子はきっと、大人になってもアナタとアナタの演じたヒーローを尊敬し続けることでしょう。

おわり